「味わう時間」
― 生産性のその先にあるもの ―
最近、
AIの進化がものすごい速さで進んでいます。
文章を書いてくれる。
絵を描いてくれる。
音楽をつくってくれる。
分からないことを聞けば、
すぐに答えが返ってくる。
とても便利で、
とても豊かな時代。
きっとこれからも、
もっと便利になっていくのでしょう。
でも、その一方で、
ふと考えることがあります。
私たちは、
何を味わって生きていくのだろう、と。
便利になるほど、
速くなるほど、
気付けば「こなすこと」が増えていきます。
目の前のことを終わらせる。
次へ進む。
また次へ…。
毎日を一生懸命生きているはずなのに、
いつの間にか、
感じることより、
処理することの方が多くなっている。
忙しさの中では、
心も少しずつ鈍くなっていくのかもしれません。
嬉しいことも。
悲しいことも。
美しい景色も。
尊くて貴重な時間が、
簡単に通り過ぎてしまうことがあります。
私は、
瞑想が得意ではありません。
「何も考えない時間をつくりましょう。」
「自分自身とただ向き合いましょう。」
そう言われても、
どうにも落ち着かなくなってしまうのです。
でも、
針を持つと不思議…。
ひと針。
またひと針。
ただ手を動かしているだけなのに、
少しずつ自分の奥に潜っていくような感覚になります。
何かを考えようとしているわけではありません。
答えを探しているわけでもありません。
ただ、
その時間を味わっている。
作品をつくっているようでいて、
本当に向き合っているのは、
自分自身なのかもしれません。
目まぐるしく変わる時代だからこそ。
温度を持たない世界が広がるからこそ。
人の手でしか感じられない温度や、
ゆっくり流れる時間は、
これからもっと価値を持つような気がしています。
効率では測れない時間。
生産性では語れない時間。
そして、そこに生まれる価値…。
でも、
そんな時間があるからこそ、
見えなくなっていた彩りや、
当たり前にある豊かさに、
もう一度気付けるのではないでしょうか。
私にとって刺繍は、
作品をつくる時間であると同時に、
自分に戻る時間でもあります。
自分を味わう時間。
深さや濃さ、
感覚や温度。
生きていることを、
静かに感じる時間。
そんな、
少し贅沢な時間です。
私は、
その時間に
「eni no jikan」
という名前を付けています。
刺繍が上手になるための時間ではなく。
何かを完成させるための時間でもなく。
忙しい毎日の中で、
ほんの少し立ち止まり。
今を味わい、
自分に戻る時間。
誰かを想い、
静かに祈るような時間。
そんな時間を、
いつか誰かとも分け合えたら。
その妄想もまた、
ひと針ずつ育てているところです。

∗atelier eni 167∗
﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍
立体手刺繍アクセサリー
atelier eni の作品は
オンラインショップでもご覧いただけます。
刺繍から生まれた草花たちを
お届けしていますꕤ

