「見たことのない草花を」
― ∗atelier eni∗が立体になった理由 ―
刺繍を始めた頃、
花を縫うことはとても自然な流れでした。
けれど、平面に咲く花には、
どこか少しだけ足りない感覚がありました。
そして同時に、
どこかで見たことのあるような、ありふれた印象も…。
それは決して悪いことではないけれど、
自分が咲かせたい花は、
少し違うところにある気がしていました。
立体にしたかった理由は、
ふわっと開く…そう、
リアルな花のように”咲く”という感覚が欲しかったからだと思います。
それから、蕾にも、八重咲きにも、満開にも。
その日によって自由に咲き方が変わる、
少し欲張りな草花を咲かせたかった。
ワイヤーを縫い込み、花びらがほんの少し浮いたとき…。
それまで平面にあったものが、
ふっと空間に現れたような感覚がありました。
光が当たると影が生まれ、
角度を変えると表情が変わる。
その変化が、とても自然に思えたのを覚えています。
そうなるために、試行錯誤を重ねて、
ワイヤーを縫い込むことに辿り着きました。
独自の手法で、少しずつ形にしてきたものです。
だから、刺繍の中では正解ではないのかもしれない。
もしかしたら、
少し邪道だと言われることもあるのかもしれません。
正解のない世界で、
私なりをカタチにしてきたものが、
∗atelier eni∗でもあるのだと思っています。
立体になると、光だけでなく影が生まれます。
その影は決まった形を持たず、
見るたびに揺らぎます。
朝の光の中では軽やかに。
夕方には少しだけ深く。
その移ろいに、
思わず見入ってしまうこともあります。
影の美しさもまた、この草花のひとつの魅力です。
自然の中には、
すでにたくさんの美しい草花があります。
特別な思い入れのある花や、
花言葉に意味を重ねて大切にされているお花も。
そうした存在には、それぞれに物語があって、
人の記憶や時間と結びついているのだと思います。
だからこそ、
そのカタチをそのまま再現するだけではなく、
自然の中にある揺らぎや、
少しずつ違って見えるカタチ、
光や空気を含んだような気配を、
自分なりにすくい上げたいと感じました。
そして、
実際に存在している草花だけでなく、
∗atelier eni∗の世界の中でだけ咲く草花も、
少しずつ生まれています。
どこにも名前はないけれど、
確かにそこに在るような草花。
誰かの記憶や感覚に、
そっと重なるような存在。
振り返ってみると、
はじめから理由を言葉にできていたわけではありません。
ただ、平面では留まりきらなかったものが、
立体になると、すっと落ち着いたのです。
それだけのことだったのかもしれません。
自分から溢れ出る唯一無二を
カタチにしたかったのだと思います。
今は、特別な花を作ろうとしているというより、
どこかで見た光や、
記憶の中に残っている草花の気配を、
そっとすくい上げるように縫っています。
私にしか咲かせることのできない、
特別な草花を。
まだ見たことのない、
∗atelier eni∗の世界を。
これからも、ひと針ずつ、静かに咲かせていきます。

∗atelier eni 148∗
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