「物語の向こう側」
― 作り手という、ひとりの人間 ―
ここまで物語を綴ってきて、
ふと考えることがあります。
みなさんの中で、
∗atelier eni∗ の作り手って、
どんなふうに見えているんだろう…って。
やわらかな世界の中にいて、
少し現実から離れた場所にいるような…。
そんなイメージを
持ってくださっている方も
いるのかもしれません。
ひと針ずつ咲かせている
草花の姿から、
儚くて、静かで、
どこか触れたら壊れてしまいそうな
存在を思い描いてくださっている方も
いるのかもしれない。
でも、たぶん私は、
そんなに綺麗な存在ではありません。
妖精というより、
どちらかというと魔女。
もしくは
妖怪寄りかもしれないな、と
自分では思っています。
作品の中に落とし込んでいる繊細さは、
きっと私の一部ではあるけれど、
それだけで生きているわけではなくて。
どちらかというと、
その反対側にあるような、
図太さや、しぶとさや、
簡単には折れない強さのようなものを
盾にして、ここまで歩いてきました。
普通に笑って、
普通に疲れて、
普通に落ち込む日もある。
綺麗なままではいられない現実の中で、
それでも立っていくために、
いろんなものを抱えながら
過ごしてきた時間があります。
物語を描き始めたとき、
正直、少し怖さもありました。
それは、
長いあいだ触れないようにしていたものに
手を伸ばすような感覚だったからです。
ずっと閉じて、
見ないふりをして、
そっと奥に置いてきたもの…。
書きながら、
ひとつ気づいたことがあります。
闇の中にいた時間は、
思っていたよりずっと長くて、
気づけば
6年が過ぎていました。
それなのに私は、
自分のために涙を流したことが
ほとんどなかったのです。
悲しいとか、つらいとか、
そういう言葉にする前に、
ただ毎日をやり過ごしていた気がします。
物語の中では、
光や祈りという言葉で
包んでいたけれど…。
その奥には、
ちゃんと体温のある現実がありました。
決して軽くはない出来事や、
言葉にしきれないほどの感情や、
そこからしか生まれなかった想いも、
確かにそこに在って。
だからこそ、
今こうして咲いている花たちは、
ただ綺麗なだけではなくて、
どこか深いところで
現実と繋がっているのだと思います。
だからこれからは、
少しずつでいいから、
その“向こう側”の話も
していこうと思っています。
綺麗な言葉にならない日も、
まとまらないままの気持ちも、
そのままの形で。
整っていない感情も、
途中のままの想いも、
無理に整えずに、
そのまま差し出してみようと思います。
物語と現実のあいだを、
行ったり来たりしながら…。
∗atelier eni∗ の世界と、
ひとりの人間としての私が、
少しずつ重なっていくように…。
そんなふうに、
これからの言葉を
紡いでいけたらと思っています。

∗atelier eni 138∗
