「あの日の私が、今の私になるまで。」
― 小さな時に蒔かれていた、好きの種 ―

小さな頃、私には大好きな世界がありました。
木のぬくもりを感じる、小さなログハウス。
草花に囲まれた景色。
そして、花の妖精たちが描かれた『フラワーフェアリーズ』の世界。
本やカードに描かれた小さな妖精たちを、
飽きることなく眺めていました。
道端に咲く花の陰にも、野原の草むらにも、
もしかしたら妖精が隠れているんじゃないか…。
そんなことを本気で想像しながら、
足元の小さな世界を覗き込んで歩く子どもでした。
虫も、草花も、小さな生き物たちも大好き。
自然の中を駆け回り、
花の蜜を吸ったり、桑の実を食べたり、
どんぐりを集めて歩いたり…
なかでも、よく覚えているのがシロツメグサです。
野原で摘んだシロツメグサを編んで、
王冠やネックレス、ブレスレットをつくる。
できあがったものを身に付けたり、
母や友達にプレゼントする。
特別な材料なんて何もないけれど、
そこにある草花だけで宝物が生まれるような時間でした。
今思えば、あの頃の私は、
知らず知らずのうちに、たくさんの「好き」という種を
蒔いていたのかもしれません。
冷たく、硬い土の中で
けれど、その種がすぐに芽を出したわけではありませんでした。
大人になり、母になり、日々の暮らしに追われるなかで、
いつの間にか、あの頃のように胸をときめかせることも
少なくなっていました。
そして、人生には、
自分ではどうすることもできない出来事が重なる時期があります。
大切なものを失い、
思い描いていた未来が見えなくなってしまったとき。
私の世界から、色がなくなってしまったように感じました。
まるで、冷たく硬い土の中に、
深く埋まっているような時間。
光がどこにあるのかも分からない。
そんな暗闇の中で、ある日、
不意に思い出したものがありました。
子どもの頃、大好きだった『フラワーフェアリーズ』です。
世界に、もう一度色が戻った日
懐かしくなって調べてみると、
私が子どもだった頃には持っていなかった
仕掛け絵本が出版されていました。
思わず購入して、ページを開いた瞬間…。
忘れていたはずの感覚が、一気に蘇ってきたのです。
花々の間に暮らす小さな妖精たち。
ページをめくるたびに広がる、繊細で美しい世界。
子どもの頃に感じていた、あのワクワク。
理由なんてなく、
ただ好きで、ただ夢中になれた気持ち。
大人になってから、特に母になってからは、
こんなにも心が躍ることがあっただろうか…。
そう思うほど、胸の奥からときめきがあふれてきました。
色を失っていた世界に、
少しずつ色が戻ってくるような感覚。
あの一冊は、私を幼い頃の世界へ連れ戻し、
そして、もう一度、今の世界へと
引き戻してくれたのだと思います。
そのとき、不思議なほど強く感じたことがありました。
私も、この世界に咲いているような花をつくりたい。
絵本の中から、そのまま飛び出してきたような、
立体的な花を。
ただ眺めているだけではなく、
自分の手で形にしたい。
そんな思いに突き動かされるように、
私は刺繍を始めました。
幼い頃から親しんできた、針と糸。
そして、ずっと心の奥に残っていた、
草花や妖精たちの世界。
それらが、何十年もの時間を経て、
ひとつにつながったような気がしました。
小さな頃に蒔かれていた種
もちろん、どこで、どんなふうに種が蒔かれたのか、
はっきり説明できるわけではありません。
ただ、あの頃の記憶がなかったら、
きっと今の私の発想にはたどり着かなかった。
そんなふうに思うのです。
植物の種が、土の中で長い時間を過ごし、
水や温度などの条件が揃ったときに芽を出すように。
私の中にあった小さな種も、
ずっと眠っていたのかもしれません。
その間に出会った人たち。
心に残った言葉。
忘れられない景色や、さまざまなご縁。
そのひとつひとつが、
知らないうちに栄養となっていたのだと思います。
冷たく硬い土の中にいた時間さえも、
今につながっている…。
だからといって、
つらかった出来事をすべて必要だったと
言い切りたいわけではありません。
ただ、何も育っていないように見えた時間にも、
私の中には確かに残っていたものがあった…。
そう思えるようになりました。
あの頃の私と、今の私
そして今。
八ヶ岳の麓で、草花をモチーフにした
立体手刺繍のアクセサリーを制作しています。
ひと針ずつ糸を重ね、
小さな花を形にしていく時間。
その中に、幼い頃の私が見つめていた世界が、
今も静かに重なっているように感じます。
今回の二人展で、
私がメインの作品に選んだのは、クローバー。
秋の紅葉が美しい季節に、
緑をテーマにした作品を並べます。
私にとってクローバーは、
季節だけでは語れない、特別な草花なのです。
小さな頃、野原で夢中になって編んだ
シロツメグサの王冠やネックレス。
今、刺繍でクローバーをつくりながら、
ふと、あの頃の自分を思い出すことがあります。
「ああ、私、昔も同じことをしていたんだな。」
材料も、技法も、つくるものも変わったけれど。
好きな草花を、自分の手で形にする喜びは、
あの頃から何も変わっていないのかもしれません。
今回の二人展では、
そんな幼い日の記憶と、今の私の時間が重なるような
作品を並べたいと思っています。
まるで、野原でシロツメグサを編んでいた、
あの頃のように…。
草花の小さな世界を覗き込むように、
作品を眺めてもらえたら嬉しいです。
そして、もしよかったら。
あなたも、小さな頃に好きだったことを
思い出しに来ませんか?
忘れていた景色や、
夢中になっていた時間。
そんな記憶を、ふと思い出すきっかけになるような
二人展になったら、とても嬉しく思います。
小さな頃のあなたは、どんなことが好きでしたか?
その「好き」は、今のあなたにもつながっていますか?
よかったら、あなたの中に残っている小さな記憶を、
そっと教えてください。
∗atelier eni 193∗
﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍﹍
立体手刺繍アクセサリー
atelier eni の作品は
オンラインショップでもご覧いただけます。
刺繍から生まれた草花たちを
お届けしていますꕤ

