「青の祈り」
―想いが還る場所―
静かに沈む言葉
勿忘草を刺したのは、
あの日から一年が経ったころ…。
花びらを重ね、
束ねながら、
あの人の気配が
少しずつ光の方へ溶けていきました。
そして、
少しずつ現実を
のみこんでいったのです。
歌の残響
あの人が、
珍しくよく聴いていた曲
――「勿忘」。
当時は、
なぜその歌を選んでいたのか、
私は深く考えませんでした。
けれど今になると、
その歌詞のひとつひとつが
胸の奥に、静かに沁みてくる…
青い花を咲かせながら、
“忘れない”というより、
“忘れられない”という祈りを
私は束ねていました。
それは執着ではなく、
約束でもなく。
ただ、
想いが行き場を探して
漂っているような…
そんな、
祈りにも似た
想いだったのかもしれません。
私はようやく、
ひとつの季節を終えます。
夏の真ん中で
それは、夏の真ん中。
蝉の声が遠ざかり、
夕立が街を包んで、
世界が一瞬、白く滲んだ。
光が強すぎるほどに
影を濃くするこの季節。
私はここで、
“手放す”という
愛のかたちを知りました。
それは、
忘れることでも、
なかったことにすることでもなく、
ただ、その想いを
ジャッジする事なく、
そっと見守ること…。
それから、
在ることを大切にするために
視点を変えて、
在り方に変換して、
内側を灯すこと。
そうして
受け取り、手放して
呼吸をするように
私を通して、巡ってゆく…
めぐりの青
永遠など、どこにもない。
けれど想いは、
カタチを変えて
何度でも巡ってくる。
あの日、
風が止んだ空の下で、
私は16の祈りを胸に刻んだ。
それは別れの言葉ではなく、
ありがとうの連なりでした。
光の方へ
光の方へ、祈りを手放す。
悲しみも、愛も、
ありがとうも…
全部がひとつに溶けて、
輪郭を失い、
やさしい青になっていく。
私の掌の外でも、
ちゃんと続いている。
だから、
“還そう”と思えた。
握り締めていなくても、
大丈夫。
私ももう大丈夫。
今日も、静かに、青が咲く…。

∗atelier eni 88∗

