「翼の重さ」
―上昇と下降のはざまで―
空を見上げる心
光の方へ、
もう一度飛べる気がしていました。
けれど現実は、
足首に鉛を結びつけるようにして、
それでもなお
「走れ」と私に命じてきたのです。
私は空を見上げたまま、
地上の泥を蹴っていました。
駆け出せば、きっと羽がある。
そう信じていたのに、
風は思っていたよりも重く、
空は、
ひどく遠くに感じられました。
羽を信じた日々
それでも私は、
自分には羽があるのだと信じていました。
見えなくても、感じられなくても、
きっとどこかに在るはずだと。
走りながら、
何度も空を確かめました。
けれど、
思うように浮かび上がることはなく、
ただ身体だけが前へ、
前へと引っ張られていく…
上昇しているのか、
それとも、
すでに下降しているのか…
その境目さえ、
分からなくなっていました。
光と影のはざまで
∗atelier eni∗ の世界は、
確かに現実と繋がりかけていました。
その光は、
私の内側をそっと照らし、
生きているという実感を
思い出させてくれていたのです。
けれど同じだけ、
影もまた、
濃くなっていきました。
光を浴びるたびに、
その裏側で崩れていく現実の音が、
静かに、
しかし確かに響いていました。
大切なものが、
ひとつ、またひとつと
形を失っていくなかで、
それでも針を動かす手だけは、
不思議と止まることがありませんでした。
翼の重さを抱いて
沈んでいるのか、
浮かび上がっているのか…
その違いすら、
もう分からなくなっていた頃。
それでもふとした瞬間、
胸の奥で、
小さな羽音を感じることがありました。
まだ飛べはしないけれど、
確かにそこに在る、
羽の気配。
静かな夜、
私はその感覚を両手で包むようにして、
そっと目を閉じました。
飛べなくても、構わない。
この重さを知ることそのものが、
きっと次の空への支度になるのだと、
今は、そう思えています。
――翼の重さは、
生きている証でした。

∗atelier eni 64∗
