「光を吸いこむ芽」
―いっぽ、という名の呼吸―
風の誘い
ある日、
風のようにひとつの声が届きました。
優しく土を揺らすような誘いでした。
その音は不思議と、
遠い昔に聞いたことがある気がしました。
“まだ外の光を見ていい”
そんな風に囁かれた気がして、
胸の奥の小さな芽が、
そっと動きました。
目覚めの衝動
それは突然の決意ではなく、
長い冬を越えた根の奥から
滲み出すような衝動でした。
恐れよりも、
必要の方が先に立って、
この芽は、光を知らなければならない――
理由なんてなくて、
ただそう感じたのです。
はじめての「語り」
これまで私は、
∗atelier eni∗ という名前を
誰にも語ってこなかった。
語るということは、
その世界に現実の輪郭を与えること。
それは小さな祈りを外に放つようで、
どこか怖かった。
けれどこのとき、
初めて“まだ見ぬ誰か”に向けて
ひとつの花を作った。
その瞬間、
∗atelier eni∗ は私の中の世界から
ゆっくりと外の世界へと歩き出しました。
現実と夢のあいだ
準備を進めるたびに、
心の中で光と影が混ざり合いました。
怖さもあった。
けれど、
その怖ささえ美しかった。
感じられるということが、
生きている証のように思えました。
何も感じられない日々が
長く続いていたから…
現実の方が遠く、
想像の方が確かな世界。
矛盾の境目で、
私はようやく
息をしている自分に気が付いたのです。
そして小さな芽は、
いっぽ。
――光の方へ、
そっと顔を出したのです。

∗atelier eni 59∗

