「涙の代わりに溢れた種」
― 声にならなかった祈り ―
凍った春の胸の奥で
涙は出なかった。
胸の奥が音もなく凍り、
何かが確かに崩れたのに、
世界は何も変わらない顔で
続いていった。
触れた温もりの痛み
泣くことより先に、
隣で泣く人の肩を撫でていた。
その温もりが、
どうしようもなく悲しかった。
遠のく自分
悲しいのに泣けない。
壊れているのに動ける。
そんな自分が、
ひどく遠くの他人のように思えた。
こぼれ落ちる記憶
残したいほど消えていく。
——声も、匂いも、体温も。
指の隙間をこぼれる砂のように、
記憶は静かに零れ落ちた。
空洞と呼吸
世界はしんと静まり返り、
心の中には風も届かない空洞。
それでも、
微かな呼吸だけが
私をこの世界につなぎとめていた。
祈りのかたち
そして——
涙の代わりに、
一粒の”種”が
静けさの底から溢れ出た。
それは、
声にならなかった
祈りのカタチ。
闇の土の中で、
まだ眠っていた。
再生の息吹
それは、
私が見付けた
闇を抱えながら
生きるということ。
失われたものが
カタチを変え、
なお続いていくということ。
真っ暗闇の中で
抱きしめていた、
わずかな光の種——
その種はやがて
∗atelier eni∗ の世界となり、
いまも私の中で
静かに息をしています。

カットワークを終えて、刺繍枠の平面から飛び出し、自由に動きを纏うsakura。
この後は、寄り添える様にお仕立てしていきます。
∗atelier eni 49∗

