「春の扉」
それは、
寒い春の日。
満開の桜に、
雪が降り積もっていた。
白と薄桃が混ざり合う景色は、
あまりに美しくて、
けれど、
どこか痛々しかった。
世界が一瞬、
呼吸を止めたように静まり返る。
溶けきれない痛みが、
空気の中に滲んでいた。
やわらかなはずの季節が、
まるで凍てついたまま
動かない心のようで…
それでも、
冷たい土の奥で、
ひとつの種が、
確かに息をしていた。
まだ光を知らない、
はじまりのようで、
終わりのような——
そんな“春の扉”の前で、
世界は、
静かに時を止めていた。
そしてそれは、
まだ誰も知らない、
そんな春のはじまり。

∗atelier eni 47∗

