「糸のこと」
― 想いを結ぶ、色のしずく―
はじまりの糸
∗atelier eni∗の世界は、
一本の糸からはじまります。
糸を選ぶことは、
心の色を選ぶこと。
季節や想いの色を探しながら、
今日もそっと指先で
“世界の温度”を確かめています。
アトリエの棚には、
無数の糸たちが静かに並び、
まるで物語を紡ぐ順番を
待っているかのよう。
彼らはいつも、
私の心の奥を映す鏡のようで、
手を伸ばすたびに
“今”の私を教えてくれるのです。
糸を選ぶ時間にも、
小さな魔法がかかっています。
色を選ぶ心
艶をまとったDMCの糸は、
晴れた日の光のように凛として。
やわらかなくすみを帯びたCOSMOの糸は、
静かな朝靄のように
優しく寄り添います。
そしてOLYMPUSの糸は、
花の命を映すように、
力強く鮮やかな発色を見せてくれる。
その時々の心の景色に合わせて、
色の“響き”を選ぶのです。
光を縫う銀糸
作品によっては、
純銀加工の銀糸を使うこともあります。
まるで夜空の星屑を縫いとめるように、
ひと針ごとに光が静かに息づいていく。
淡く輝くその軌跡は、
闇の中に咲く花びらの輪郭を
そっと照らします。
遠くの空気を纏う糸
ときには、
海を越えてやってきた海外の糸も
手に取ります。
なかでも、
やわらかく色の滲む“グラデーションの糸”は、
不思議と海外のものに惹かれることが多いのです。
その糸に触れるたび、
知らない空気や、
まだ見ぬ物語の気配がふっと香る。
指先を伝って広がる異国の風が、
∗atelier eni∗の世界に
新しい色を吹き込んでくれます。
想いを結ぶ祈り
糸は、
祈りのようであり、
呼吸のようでもある。
一本の糸が、誰かの心と私を結び、
やがて∗atelier eni∗という世界を形づくる。
今日も私は、
色のしずくをすくい上げるように、
ひと針ひと針を重ねながら、
目には見えない“想いの糸”を紡いでいます。

∗atelier eni 32∗

