カットワーク
― 平面から、物語がそっとほどける―
解き放たれる気配
刺繍枠からそっと離れた糸が、
ふわりと世界へ広がっていく
瞬間がある。
長い時間を
布の上で過ごしてきた形が、
静かに境界をほどかれ、
軽やかな空気に触れるひととき。
その変化はわずかなのに、
心の奥でなにかがそっと波立つ。
“ここから自由になる”という
穏やかな合図のようなもの。
境目に宿るやわらかさ
カットワークに向き合うとき、
すべての感覚が
静かに研ぎ澄まされていく。
繊細な境目を開くほどに、
平面の世界に閉じ込められていた物語が
小さく息をつくように立ち上がる。
張りつめた気配の中に、
ふとやわらかい光が差すような
瞬間がある。
“もっと自由に。
もっとその子らしいかたちへ。”
そんな願いを添えるように、
ひとつひとつの
“カタチ”を切り取っていく。
立体へと跳ね上がる物語
布から離れた小さな断片は、
指先にのせた途端、
まるで仕掛け絵本のページが開くように
そっと動きを持ちはじめます。
角度を変えるたびに、
かすかな影が揺れ、
輪郭がわずかに
浮かび上がっていく…
その立体感は、
平面のままでは出会えない景色であり、
∗atelier eni∗の作品に宿る
独特の個性。
形が軽く跳ね上がるたび、
静かな温度を含んだ
“新しい世界”が
一歩前へ進む。
儀式のような時間
カットワークは、
ただの工程ではなく、
平面にそっと眠っていた物語を
次の章へ送り出すための
儀式のようなもの。
少しだけ緊張をはらみながら、
けれどどこまでも静かで、穏やかで、
透明な時間が流れていく。
その先に生まれる風景は、
いつも想像をこえてやわらかく、
静かで、あたたかい。
新しい旅立ちへ
この瞬間が、
私にとっていちばん好きな時間。
まだ見ぬ誰かの手のひらを
思い浮かべながら、
“この花が、その人のもとで咲きますように”
と願いを込める。
カットワークは、
ただ布を切る作業ではない。
平面に宿っていた物語を、
現実へとそっと送り出すための、
小さな祈りの儀式なのです。

∗atelier eni 41∗

