「atelier」
― はじめに咲く場所―
時の音、光の息
カチ、コチ、カチ、コチ――
振り子時計が
小さく時を刻む音だけが響く。
けれど、
不思議とこの場所では、
その音に包まれながら
“時”を忘れてしまう。
窓から差し込むやわらかな光が、
机の上の道具や、
糸のかけらをそっと照らしていく。
窓の外からは、鳥たちのさえずり、
虫の羽音、木々を渡る風の音…
それらが静かな音楽のように重なり、
アトリエ全体が
ひとつの呼吸をしているよう…
咲きかけの花たち
ここは、
∗atelier eni∗の小さな世界。
糸たちは、
季節の草花のように並び、
それぞれが次の物語の出番を待っている。
針と糸が出会うたびに、
小さな命の灯がともり、
花たちは静かに、
けれど確かに咲いていく。
カゴの中では、
咲きかけの花がまどろみ、
まだ名前のない小さな欠片たちが
夢を見ている…
∗atelier eni∗の花々は、
このアトリエの空気を吸い、
光を飲み込みながら息づいている。
八ヶ岳の息吹とともに
窓の向こうには、
八ヶ岳の季節がめぐる。
春には、
淡い霞が山肌にやさしく降りて、
風に乗って花の香りがふわりと流れ込む。
夏は、
濃い緑の葉が光を弾き、
朝露の粒がきらめきながら、
小さな森の気配を連れてくる。
秋になると、
金色に染まった木々がさらさらと揺れ、
落ち葉の舞う音が、
アトリエの奥へ静かに届く。
冬は、
ひんやりと澄んだ空気の中、
雪に覆われた山々の静寂が、
まるで光そのもののように
すっと心に染み込んでくる。
そのどの季節も、
アトリエの空気や糸の色にそっと溶け込み、
作品の奥に
やさしい息づかいを残していくのです。
息づく場所
ここでは、すべてが生きている。
時計の音も、糸のきらめきも、
小さなため息や、息を呑む瞬間さえも、
この場所の「呼吸」のひとつ。
そしてこのアトリエは、
作品が“生まれる場所”であると同時に、
私自身がそっと還ってくる
“はじまりの場所”でもあります。
ここに戻るたび、
ほどけかけた糸がゆっくり整い、
心の奥の小さな灯が
またそっと灯りはじめる。
∗atelier eni∗のアトリエは、
今日も静かに、やさしく、
光と、物語と、あなたへつながる小さな花を
ゆっくりと紡いでいる。
そして――
このアトリエから生まれた草花たちを、
もしよければ、そっと覗いてみませんか。
あなたの手のひらで、新しい物語を咲かせる
小さな花たちが待っています。

∗atelier eni 26∗

