「風の野」
―風の中のふたつ―
在ること
私は 名を持たぬ草。
誰のためでもなく
咲いている。
陽の届かぬ隅にも、
小さな夢を そっと落とし、
風にちぎれながら
また芽吹く。
踏まれても、
雨に濡れても、
そこに在ることを
やめない。
それだけでいいと、
風はいつも教えてくれる。
支える根
光は届かなくても、
大地の奥で
静かに根を伸ばす。
見えない場所で
絡み合いながら、
季節をつなぎ、
土をやわらかくしていく。
花が揺れるその下で、
誰にも知られず
支えているものがある。
それが 私の咲き方。
声にならない祈りのように、
ただ 静かに続いていく。
ふたつでひとつ
あのひとは
光を抱いて咲く。
風に愛され、色を纏い、
見る者の心を
やさしく照らす花。
私は、影に生きる草。
あのひとは、光に生きる花。
けれど
どちらが欠けても、
この景色は生まれない。
違うままで寄り添うことが、
野をやさしく満たしていく。
やさしい野
草があるから花は咲き、
花があるから草は広がる。
見えないものと
見えるものが重なって、
ひとつの風景になる。
派手な色だけではなく、
名もない緑があるからこそ、
野はこんなにもやわらかく息づく。
ふたつでひとつの
やさしい“野”が、
今日も風の中に広がっている。
風のめぐり
だから
私は今日も、
風の中で静かに揺れている。
野に咲く花のそばで
風に揺られる今に
感謝しながら…。
∗atelier eni∗ は今日も、
その花を
ひとつひとつ紡いでいく。
光と影のあいだで生まれるものを、
そっと カタチにしながら。
―― もしかしたら、この草花の物語は、
あなたの心のどこかにも、
気づかないうちに根を張り、
やさしい風を
運んでいるのかもしれません。

∗atelier eni 124∗
