「風のはじまりの庭で」
― 見えないところで、風が動く―
土の下の呼吸
灰の雨が止んでも、
世界は静まらなかった。
次々と現実が押し寄せ、
やらなければならないことに
追われていた。
身体は止まらず動いていたのに、
心はどこか遠くで、
小さく身を寄せていました。
見えない朝のほうへ
曇り空の向こうで、
光が息を潜めている。
電話の音、紙の擦れる音、
終わらない一日の気配…
そのすべての隙間で、
静かな無音が、
やわらかく私を包んでいました。
だけど、
走り回りながら
常にどこに居るのか分からず、
自分の心までも
どこにあるのか
分からないまま…
影の中の花
慣れ親しんだ物たちが、
ひとつ、またひとつと
離れていく…
そのたびに、
胸の奥で音が
少しずつ遠ざかる…
守りながら戦い、
追われながらも
必要なものを
手放さなければならない日々…
それでも、
目を閉じた世界の奥では、
小さな花が咲き続けていました。
現実が影になるほどに、
その色は、
かえって優しかったのです。
∗atelier eni∗という場所
針も糸も
手にすることは
できなかったけれど、
頭の中では、
そっと針が動いていました。
ひと針ごとに紡がれていくのは、
言葉にならない
祈りのようなもの。
それが、
目には見えない場所で、
私をそっと支えていました。
風のはじまり
遠くで、
空気が少しだけ動いた気がした…
重なっていた雲の隙間を、
見えない風が通り抜けていく。
世界がゆっくりと
息を吹き返す。
その風の音に、
私もまた、
少しだけ顔を上げた。
少しだけ居場所が分かって、
少しだけ感覚が掴めるような、
そんな風…

∗atelier eni 77∗

