「静けさの中で」
―季節の境目―
止まった風の中で
春と夏のあいだで、
風が一度、
止まりました。
吹いていたはずの空気が、
ふっと力を失ったように、
世界は淡く光をまといながら、
どちらの季節にも属さない場所に
足を止めていたのです。
空も、心も、
名前を持たないまま、
ただ静かに揺れていました。
終わりの予感
終わりが近いことは、
ずっと前から分かっていました。
けれど、それでも、
すぐに手を離すことはできなかった…
離してしまえば、
何かが決定的に変わってしまう。
そんな予感だけが、
胸の奥に、静かに残っていたのです。
けれど季節は、
こちらの都合など気にも留めず、
淡々と、
確実に進んでいきました。
私はその流れの中で、
抗うことも、立ち止まることもせず、
ただ静かに歩いていました。
感情のない空
この頃の空には、
感情と呼べるものが
見当たりませんでした。
涙もなく、
晴れやかさもなく、
喜びや悲しみの輪郭さえ、
どこか曖昧で…
ただ深く息をして、
その日の空の色を、
ひとつ、
確かめるだけ。
感情がないのではなく、
感情が、
音を立てずに内側へ
沈んでいたのかもしれません。
終わりと始まりの重なり
この日は――
かつて、enishiがこの世界に
生まれてきてくれた日でもありました。
ひとつの「終わり」と、
ひとつの「はじまり」。
本来なら交わらないはずの時間が、
この日だけは、
静かに重なっていたのです。
その重なりの中で、
私は、そっと手を離しました。
そして同時に、
ひとつの小さな芽を、
地上へと押し出しました。
それは、
大きな決断というよりも、
流れに身を委ねるような、
とても静かな動きでした。
季節が息を吹き返す
――季節の境目。
すべてが止まったように見える
その時間の底で、
確かに、
次の風が生まれていました。
まだ名前はなく、
まだ形もはっきりしないけれど、
確かにそこに在る、
新しい気配。
私はそれを、
急いで掴もうとはせず、
ただ、静けさの中で
受け取っていました。

∗atelier eni 67∗
