「葉を広げる影」
―光と影の均衡―
呼吸のための針
風向きが変わり、
家族のかたちも、
日々の輪郭も、
少しずつずれていきました。
私はただ、
壊れないように
守り抜けるように、
静かに日々をやり過ごしていました。
身体を壊しながらも、
針を手放すことだけはしなかった。
あの時間は、
現実の中に残された、
唯一の”呼吸”だったから。
唯一の”光”だったから。
繋ぎ止める糸
刺繍をしているあいだ、
私は無心でいたかった。
けれど、針先にはいつも
確かめるような想いが絡みついていた。
糸は祈りではなく、
崩れていく日々を繋ぎ止める
細い線だった。
葉の裏の影
現実の外側で、
∗atelier eni∗の世界は
驚くほどに生命力を持って
広がっていた。
縁が増え、仲間が繋がり、
葉を広げるように
世界が光を浴びていた。
けれど、
その光が強くなるほどに、
影は濃くなっていった…
静けさの予感
私は怯えていた。
もう、見えてしまっていたから。
どこかで、終わりが
静かに息をしていることを。
光に向かう葉の裏で、
影はひっそりと形を変えていた。
そのわずかな揺らぎの奥に、
まだ名もない季節の気配が潜んでいた。
――そして、
影は確かに地に触れた。
それは壊れる音ではなく、
静かに重さを持つ感覚だった。
私は、その均衡の中に立ち、
次に吹く風を、
ただ待っていた。

∗atelier eni 68∗

