「ワイヤーワーク」
―動きをまとう花のはじまり ―
眠りから目覚める線
布をぴんと張り、
刺繍枠にはめる。
その静けさの中で、
針とワイヤーがそっと出会う。
細い金属の線を
手の中で撫でながら、
花びらの輪郭を探すように、
ゆっくりと形を起こしていく。
ワイヤーは、
∗atelier eni∗ の花たちが
“平面”の世界から
抜け出すための道しるべ。
糸だけでは届かなかった揺らぎ、
影だけでは描けなかった深度、
光だけでは掴めなかった息づかい。
それらすべてをすくい上げるように、
ひと針、またひと針と
縫い込まれたワイヤーは
布の上で眠っていた命を
そっと目覚めさせていくのです。
平面から立体へ
私がワイヤーを扱い始めたのは、
どうしても
“平面では足りなかった”からでした。
花弁が風をはらむ一瞬の丸み、
影がふくらむ角度、
光がふちをなぞるその瞬間。
そのどれもが平らな布の上では
どうしても
捉えきれないと感じたのです。
もっと自由に、もっと動きのある姿で
花を生かしたかった。
そうして試行錯誤を重ねながら、
ワイヤーを縫い込み、
糸と同じ速度で呼吸させる
独自の技法へと辿りつきました。
正解のない道。
だからこそ、
たったひとつの
“atelier eni の正解”を
静かに探し続けています。
自由を纏う翼
立体刺繍の肝となるこの工程で、
花たちは“自由”という名の
翼を授かります。
曲げたり、伸ばしたり、
かすかに揺らめかせたりしながら、
風の流れを追い、
光の中へ溶けていく。
ワイヤーは従わせるものではなく、
共に踊るための相棒。
その瞬間、眠っていた花が
最初の息を吸い込むように、
糸が小さく震え、
世界にひとつの命が
そっと芽吹くのです。
線は祈りの軌跡
ワイヤーはただの支えではなく、
祈りのような軌跡を描くもの。
花の姿を
“固定する”ためではなく、
その生きている動きを
そのまま刻みつけるために存在します。
だから私は今日も、
細い線をそっと撫でながら
見えない息づかいを形にしていく。
光と影のあいだで揺れる
∗atelier eni∗ の花たちは、
この小さな線から生まれる
ひとつの奇跡のはじまりなのです。
正解のない道を歩きながら
ワイヤーの角度も、針の運びも、
どれほど繰り返しても
“完全な正解”はありません。
けれど、だからこそ
花が一番自然に見える角度、
呼吸が宿る丸み、
心がふっと緩む揺れ――
それらを探し続けることが
私の制作そのものになりました。
今日も、布の上には
まだ言葉にならない
小さな動きの予感が
静かに芽をひらこうとしています。
ワイヤーと糸が重なり、
小さな花がそっと息をはらむようにして
生まれた作品たちは、
オンラインショップにも静かに並んでいます。
ひとつひとつ違う角度で揺れ、
手のひらの上でふわりと表情を変える、
世界にひとつだけの
“動き”を宿した花々。
もし、この物語の途中で
あなたの心にかすかな光が触れたなら――
どうぞ覗いてみてください。
∗atelier eni∗ の花たちが、
あなたの暮らしの中で
そっと呼吸を始めるかもしれません。
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∗atelier eni 39∗

