「デザイン」
―想いがかたちを探すとき ―
芽吹きを待つ時間
まだ何も描かれていない
白い紙の上。
けれど、
心の奥ではもう、
小さな花のつぼみが息づいている。
∗atelier eni∗のデザインは、
描くというより、
“芽吹きを待つ”ような感覚。
日々の暮らしの中でふと目にした
野の花の揺れ方、
窓辺に落ちた影の形、
風に運ばれてきた香り――
そうした小さな気配が、
まだ言葉にも形にもならない種のように
静かに胸の奥で温まり、
やがて紙の上にそっと触れようとする。
時に落ちてきたかのように、
湧いて出てくるように、
前触れもなく突然に
イメージが膨らんだり。
言葉や雰囲気を落とし込むことも
あります。
世界に咲く花の姿
この世界の花たちは、
現実の花をそのまま写すのではありません。
“∗atelier eni∗の世界に咲くのなら、
どんな姿になるだろう”
と、ひとつひとつに問いかけながら
花はゆっくり形を探していきます。
花びらが風にほどけたとき、
影がどんな輪郭を描くのか。
糸が光を受けて立ち上がる瞬間、
どんな息づかいを見せるのか。
そのひとつひとつの変化を
手のひらで受けとめるようにして、
デザインは生まれていきます。
揺らぎに宿るいのち
大切なのは、完璧さではなく、
そこに宿る小さな
“揺らぎ”や“いびつさ”。
ほんの少し歪んだ花びらや、
左右が揃わない影の落ち方。
針目の間に生まれる余白も、
そのすべてが ∗atelier eni∗ 。
その不揃いさこそが、
∗atelier eni∗らしさであり、
生きている証のように
美しいと感じます。
静けさの中の予感
紙の上に描く線のひとつひとつに、
咲いたあとの光景を
そっと思い描きながら、
今日も私は、
針を持つ前の静かな時間を楽しんでいます。
糸を通す前の、
ほんのわずかな“間(ま)”。
その静けさの中にこそ、
まだかたちにならない予感が
ふわりと芽吹いていく。
色が生まれる瞬間
色を選ぶとき、私はいつも
“記憶の中の色”に触れにいきます。
夕方の階段に差し込んだ淡い光、
八ヶ岳の朝靄のなかで溶けた青、
指先にふれた野ばらの気配…
そんな、
小さな記憶の断片たち。
その記憶をひとつずつ
すくい上げるようにして
糸箱を開くと、
同じ色に見える糸が
その日によって
まるで違う表情を見せてくれるのです。
色を“選ぶ”のではなく、
“探す”様な感覚。
花が咲くときの息づかいに近い色、
影が音もなくほどける色、
光の粒が沈んでいく色。
そうして選ばれた色たちが、
まだ見ぬ花の輪郭を
静かに照らしはじめます。
想いがかたちになる場所で
デザインとは、
想いがかたちを探し続ける過程そのもの。
線となり、色となり、
やがて針と糸の中で花へと変わっていく。
その一連の“めぐり”のすべてが、
∗atelier eni∗の息づかいです。
今日も静かなアトリエで、
まだ言葉にもならない想いが
ひとつの花のかたちを探しています。

オーガンジー生地に、snowdropの下書きをしたところ。
∗atelier eni 38∗

