「やわらかな余白」
― 更待月(ふけまちづき)―
欠けはじめの光
満ちすぎた光が、
そっと欠けはじめる。
それは失われるのではなく、
静かに
形を変えていくということ。
夜更けを待つ月は、
誰よりも静かに、
誰よりも深く、
世界を照らしていました。
満ちることをやめた光は、
やわらかさを帯びて、
影の輪郭を
やさしくほどいていきます…。
手放すという美しさ
満ちることが、
すべてではありません。
足すことよりも、
ときには、
引くことの方が
美しい夜があります。
抱えすぎた想いも、
言えなかった言葉も、
ここでは
無理に形にしなくていい。
欠けていく中にこそ、
本当の美しさが宿る。
私は、そう信じています。
ありがとうの風
私はその光を見上げながら、
胸の奥に残っていた言葉を、
ひとつずつ、
そっと手放していきました。
うまく言えなかったこと。
伝えられなかった想い。
抱えたまま眠らせていた記憶。
それらは、
「ありがとう」という言葉に
姿を変えて、
静かにほどけていきました。
“ありがとう”が、
小さな風の粒になって
舞い上がる。
それが、
満ちた夜のあとに残された、
やわらかな余白。
空へ還る祈り
空に静かに溶けて、
この祈りが、
どこかへ届きますように…。
言葉にならなかった想いも、
名前のつかなかった感情も、
ちゃんと、
ここに在ったから。
そして今、
それらはもう、
私の中だけのものじゃない。
同じ空の下で
同じ風が吹いているのなら、
伝えてほしい。
――もう、大丈夫だよ、と。
強くならなくていい。
忘れなくていい。
前に進めなくてもいい。
それでも、
あなたはちゃんと、
ここにいる。
私も変わらず
ここにいる。
今、この静けさの中で、
私はそっと、
そして
あなたもきっと、
同じ空を見上げている。

∗atelier eni 102∗

